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相続トラブルは他人事ではない?預金の横領・使い込みの対応方法

相続トラブルの中でも、預金の不正引き出しや着服は、特に身近に起こりうる問題といえます。亡くなった人の口座から、同居親族や介護者が無断で現金を引き出したり、遺産分割の前に使い込んだりするケースが後を絶ちません。

このような不正行為に気づいたとき、相続人はどのように対処すべきでしょうか。また、将来に向けて、どのような備えをしておくことが大切なのでしょうか。本記事では、預金の横領・使い込みへの具体的な対処法と、トラブル防止のための事前対策について解説します。

相続した預金の横領・使い込みトラブルとは

相続預金の横領・使い込みトラブルとは、亡くなった人の預金が遺産分割前に、同居親族や介護者によって不正に引き出されたり費消されたりすることです。特に、老後資金のある口座や、保険金が振り込まれる口座、賃料そのほかの投資で得た収益が振り込まれる口座が狙われやすく、相続人以外の関係者による使い込み事例が多発しています。

よくある預金の横領・使い込みの事例

預金の横領・使い込みにあたる事例はさまざまで、起こる時期もまばらです。具体的には、下記のようなケースが考えられます。

● 老後資金のある口座から、生活費として多額の出金を繰り返している
● 賃貸不動産の家賃が振り込まれる口座から出金し、着服している
● 振り込まれた保険金を勝手に下ろし、私的な目的に使っている
● 無断で資産を売却された上、売却対価も口座から勝手に下ろされている

これらの不正行為が起こる原因としては、キャッシュカードや通帳・印鑑の管理が不十分で、故人以外の人でも簡単に持ち出しできることが挙げられます。可能なら、生前のうちに適切な財産管理の方法を考えておきたいところです。

使い込まれた故人の預金を取り戻す方法

使い込まれた故人の預金を取り戻すには、主に不正に得た利益の返還を求める「不当利得返還請求権」を主張して、話し合いや訴訟対応に臨みます。

使い込んだ人物と返還を求める人の双方が相続人である場合には、民法第884条に定められた「相続回復請求権」の主張が認められたあとに遺産分割協議をおこなう方法があります。最終手段としては「遺留分侵害額請求権」を主張し、最低限の取り分を取り戻すことになるでしょう。

預金の横領・使い込みに気付いたときの対処方法

預金の横領・使い込みが発覚したら、弁護士や司法書士などの専門家に相談し、助言を受けながら使い込んだ本人と交渉しましょう。多くのケースで話し合いにより解決できますが、本人が否定したり、話し合いが決裂したりする場合に備えて、事前に証拠集めを事前に行っておくのも大切です。

使い込みをした人への対処を順序だてて解説すると、次のようになります。

①横領・使い込みの証拠を集める

横領・使い込みの証拠収集では、まず相続開始後の預金の入出金明細を入手します。相続人の戸籍謄本を提示すれば、凍結後でも銀行から取得可能です。使い込まれたのが売却代金や保険金の場合は、買主から売買契約書の開示を求めたり、保険会社に保険金請求の情報開示を求めたりと、追加の証拠収集も必要です。

また、相続開始前から頻繁に私的な目的で預金を下ろしている場合など、本人の意思に沿わない使い込みをされていることもあります。当てはまる場合には、生前の医療記録や介護記録から本人の判断能力について立証したり、周囲の人の証言を集めたりする必要があります。

②書面で返還請求した上で本人と話し合う

証拠収集が進んだら、内容証明郵便等で使い込んだ本人に返還請求書を送付します。書面には、話し合いの希望と期限を明記し、自発的に応じるよう促します。話し合うときは「使い込みを認めない・感情的になって話し合いが進まない」などといった失敗を避けるため、弁護士や司法書士にフォローしてもらうと良いでしょう。

③訴訟を提起して裁判で返還を求める

話し合いで上手く合意できない場合は、最終手段として裁判で解決するしかありません。この場合は、適切な訴状の作成や、証拠書類の添付が必要です。訴訟の過程でも、答弁への対応や裁判官による和解勧告などがあるため、知識や経験がないと納得できる解決には至りにくいと言わざるを得ません。

万一にも、相続トラブルや預金の使い込みを巡って訴訟を提起するしかない状況に陥ったなら、そのときこそ弁護士や司法書士に依頼しましょう。法律の専門家の支援があることで、少なくとも不利な結果は避けられます。

預金の横領・使い込みへの対応時の注意点

相続した預金の横領・使い込みへの対応では、本人の資金不足や時効完成のせいで取り戻せなくなる場合に注意しましょう。ここから紹介する留意事項に沿い、しっかり先手を打っておくことが大切です。

なるべく早く口座名義人の死亡を届け出る

預金の横領・使い込み防止には、口座名義人の死亡をいち早く金融機関に届け出て、入出金できないように措置してもらうのが大切です。たとえキャッシュカードや通帳の所在が不明でも、まずは死亡の事実を銀行に伝え、戸籍謄本で相続人であることを証明できれば、口座はすぐ凍結できます。

銀行に口座名義人の死亡を届け出ることのデメリットは、同居家族が生活費を下ろせなくなることです。亡くなった人が一人暮らしだったときなど、デメリットに比べてリスクの方が大きいときは、迷わず届け出て口座を凍結してもらうのがベストと言えます。

仮差押えで返還資金の費消を防ぐ

使い込まれた預金の返還請求では、いきなり請求するのではなく、まず「仮差押え」の手続きを行うのが安全です。返還するよう裁判所が命じたとしても、相手方が費消してしまったせいで原資がない状態だと、実際の回収が困難になるためです。

具体的には、返還請求権を保全すべき権利として裁判所に申し立て、一定の担保を用意することで、本訟を提起する前でも相手方の資産を凍結できるようにします。これにより、着服した現金を少しでも多く確保し、より確実な返還を望めるようになります。

不当利得返還請求権の消滅時効は最短5年

不当利得返還請求権の消滅時効は、最短でも5年と定められています。この時効は、権利を行使できることを知った時から進行します。つまり、預金の使い込みを認識してから5年以内に返還請求をしないと、時効により権利が消滅するのです。

加えて、除斥期間という絶対的な期間制限もあります。これは権利行使可能時から10年で、時効の延長ができない点が特徴です。整理すると、

● 使い込みが発覚してから何もしない場合、5年で返還請求できなくなる
● 返還請求していても、使い込みされたときから10年経つと請求できなくなる

という具合に、返還請求権には明確な行使期限が設けられています。

特に注意が必要なのは、使い込みが行われた当時は未成年者だった人や、加齢や体調の影響で対処が遅れてしまっている人です。これらの人は、時効の完成により返還請求権を失ってしまうリスクが高くなります。

相続財産の使い込みを防ぐための対策

相続財産、なかでも預金の使い込みトラブルは、生前の早いうちに老後の財産管理について対策しなかったことが原因です。特に、多額の資産を有する人や、介護を巡って親族のあいだで揉める可能性がある人は、ここから解説する対策を練っておくと良いでしょう。

任意後見制度を利用する

任意後見制度は、将来の認知症などに備え、本人と後見人候補者が財産管理について事前に取り決めできる制度です。あらかじめ公正証書で任意後見契約を結び、万一のときは家庭裁判所で任意後見監督人の選任を申し立てることで、後見による財産管理が始まります。

この制度を活用すれば、本人が元気なうちに信頼できる人を後見人に指名することで、第三者による使い込みを防げます。後見人自身も家庭裁判所の監督下に置かれるため、不正の余地はありません。

家族信託で財産管理の仕組みを作る

家族信託とは、子どもなどの信頼できる親族を受託者として指定し、財産管理・運用を委ねる制度です。別に「受益権」を定めることで、受益者である本人や、受益権が移転した先の配偶者の生活を支えてもらうことが可能です。受託者には、信託契約に従い、受益者の利益を最優先にする義務や、受託者の固有財産と分別して管理する義務が課せられます。

家族信託の最大の利点は、任意後見契約よりも柔軟に管理・運用のルールを決められる上、遺産承継についても受益権の移転の定めを通じて希望を反映できる点です。ただ、そのぶん初期費用が高くなるため、預金が高額になるなど重要な資産がある場合におすすめできる方法です。

まとめ

ここでは、相続預金の不正引き出しや着服への対処法と、そのトラブルを未然に防ぐための方策について解説しました。預金の使い込みは、本人に資力がない場合や時効により、取り返しがつかなくなるリスクもあります。

万が一、不正行為を発見したら、弁護士や司法書士といった専門家の助言を受けつつ、早急に法的手段を講じることが肝要です。また、将来の備えとして、任意後見制度や家族信託の活用も有効でしょう。

相続を巡るトラブルについてお困りの際は、一人で抱え込まず、経験豊富な司法書士への相談をおすすめします。司法書士は、法律の専門家として、円滑な相続手続きのサポートから、紛争の調停・解決まで、幅広く対応してくれる心強い味方となってくれるはずです。