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不動産の共有名義の落とし穴|トラブルの種類と共有回避・解消の方法

親の不動産を兄弟で相続する時「平等に分けたい」という思いから共有名義を選択する家庭は少なくありません。しかし、この一見すると公平な選択が、後に深刻な家族間トラブルの火種となり、経済的困窮や不動産の差押えにつながるケースが多くみられます。

ここでは、不動産を共有で相続した場合に起こり得るトラブルの具体例と、共有名義を回避・解消するための方法について詳しく解説します。

 

兄弟での不動産共有名義相続が危険な理由


親の不動産を兄弟で相続する際、平等に分けたいという思いから共有名義を選択する家庭は少なくありません。しかし、この選択が後に深刻なトラブルの火種となる場合が少なくありません。まずは、共有名義のしくみや問題の原因について確認してみましょう。

共有名義のしくみ

共有名義とは、1つの不動産を2人以上が共同で所有する状態を指します。各共有者は「共有持分」と呼ばれる所有権の割合を持ち、この割合は出資額や相続分に応じて決定されます。たとえば、兄弟3人で均等に相続した場合、それぞれが3分の1ずつの持分を所有することになります。

共有名義と単独名義との最大の違いは、重要な決定にあたってほかの共有者の同意が必要になることです。不動産の売却や大規模な修繕、賃貸に出すといった行為には、原則として共有者全員の合意が求められます。また、各共有者は自分の持分については自由に処分できますが、不動産全体に対する権利は制限されています。

なぜ兄弟間の共有名義相続でトラブルが多発するのか

兄弟間の共有名義でトラブルが頻発する最大の理由は、土地・建物の維持管理、変更、処分について意見を統一しにくい点です。兄弟それぞれが異なる価値観や経済状況を持つため、不動産の活用方針について合意を得ることは時として困難になるでしょう。連絡が取れず、そもそも意見をすり合わせる機会を持てないことすらあります。

なかには、幼少期からの兄弟関係や過去の確執が、不動産に関する客観的な判断を妨げる要因となることもあるでしょう。また、各兄弟の配偶者や子どもが意見を述べることで、当事者以外の利害関係者が増え、問題がより複雑化する傾向があります。

 

兄弟間の共有名義不動産で起こる5つの深刻なトラブル


共有名義で不動産を相続した兄弟の間で意見をすり合わせ、必要な行為について同意を取れない状況は、さまざまな形でトラブルとなります。ここで具体例を挙げてみましょう。

売却できない

共有する不動産の売却は法律上の「変更行為」にあたり、共有者全員の同意が必要です。同意が取れない場合は、単独でもできるとされる共有持分の売却か、持分を1個の不動産とする共有物分割請求に移る方法が考えられますが、いずれも問題があります。

◾️共有不動産を手放したい・現金化したいときの問題点
・ 共有不動産全体の売却:共有者全員の同意が必要
・ 共有持分の売却:単独でできるが、価値がつかない・売れないことがある
・ 共有物分割請求:協議または調停・訴訟が必要となるため時間がかかる

維持管理費・税金の負担が不公平になる

共有する不動産では、固定資産税や都市計画税、修繕費用などを共有者全員で負担する必要があります。これらの負担割合は持分割合に応じますが、実際には不公平になることが少なからずあります。その原因は、共有者間の経済状況の違いや、認識の食い違いです。

◾️維持管理費・税金の負担が不公平になった時のリスク
・ 負担割合が大きい共有者の資金状況を圧迫する
・ 税金の未納・滞納の発生により、差押えに入る可能性がある
・ 建物・設備や土地のメンテナンスができず、資産価値が下がる

特定の兄弟が不動産を独占する

共有名義であっても、実際には特定の兄弟が不動産を独占的に使用するケースが多く見られます。共有者にはそれぞれ使用収益権が認められているため、独占をやめてもらうことは困難といわざるを得ません。持分割合に応じた使用料を不当利得として請求したり、独占する前の状態に戻したりしてもらうことはできるものの、容易ではないでしょう。

◾️共有者による不動産の独占状態が招くリスク
勝手に賃貸され、入居者を巻き込んで状況が複雑化する
維持管理の不十分さや勝手なリフォームにより、資産価値が下がる
対処が遅れた場合、共有持分の時効取得により不動産の権利を失う

共有者が音信不通になる

時間の経過とともに、ほかの共有者と連絡が取れなくなるケースがあります。住所変更の未届けや海外移住、単純な音信不通など、理由はさまざまですが、この状況では不動産の売却や重要な決定ができなくなってしまいます。残った共有者で不動産を維持するための方法はいくつかあるものの、要件があり、いずれも裁判手続となるため時間も手間もかかります。

◾️共有者が音信不通になった場合の対処法
・ 不在者財産管理人の選任を申し立てる(居所不明の場合)
・ 失踪宣告を申し立てる(原則として7年以上生死不明の場合)
・ 共有持分の時効取得ができないか検討する

共有者の相続で権利関係が複雑化する

共有者の一人が亡くなると、その持分は相続人に引き継がれ、共有者の数がさらに増加することになります。たとえば、兄弟3人で共有する不動産があり、長男に配偶者2人の子がいる場合を考えてみましょう。この長男が亡くなると、長男の代わりに相続人である計3人が共有者として参加し、共有者は3人から5人に増えます。

共有者の数は、このようにして世代を重ねるごとに増えます。世代を重ねることは血縁が遠くなることも意味し、互いに面識がないにもかかわらず土地・建物を共有する時期がすぐにやってきます。このような状況では、意思決定はより困難になり、不動産の活用や処分に関する合意形成は事実上不可能となってしまうでしょう。

 

共有名義を回避する方法・解消する方法


不動産がある状況で相続人が複数いるときはは、なるべく生前のうちの対策しておきたいところです。共有名義を避けるための生前対策として、遺言書の活用や家族信託の活用が考えられます。

すでに共有名義となっている場合は、資産価値を下げないよう、生前贈与や売買で共有解消を図るのがベストです。
遺言書で単独名義での相続を指定する
あらかじめ遺言書で不動産の権利全部をもらい受ける人を指定しておけば、その遺言書が有効である限り、共有名義は回避できるでしょう。もっとも、高額資産であるだけに遺産分割で不公平感が出る可能性がある点に注意したいところです。

◾️共有名義を回避しつつ公平に不動産を分割する方法
・ 不動産以外の資産の取得者をほかの相続人にしておく(現金など)
・ 不動産を単独で取得する条件として、代償金の支払いを指定する(代償分割)
・ 活用予定のない不動産は相続開始時に売却するものとし、代金を分割してもらう(換価分割)

家族信託を活用する

家族信託は、対象とする財産を管理・処分する権利について信頼できる家族に委ね、契約上の目的に沿った管理と利益の付与を行ってもらう契約です。この契約を活用すると、相続人全員の利益に配慮しつつ、特定の相続人が単独で土地・建物を受け継ぐしくみを構築できます。

【例】3人の子どもがおり、経営する賃貸アパートを長男の単独名義にしたい場合
……長男を受託者としてアパート経営を任せ、残り2人の子どもを受益者として賃料収入を3人で分割する内容の家族信託を組成しておく方法が考えられます。このようにして賃料収入で利益を公平に保ちつつ、信託の終了事由が発生したとき(オーナーの死亡時など)には、長男にアパートの所有権を帰属させることで、共有化による経営上のトラブルを回避できます。

生前贈与や親族間売買で共有を解消しておく

すでに共有となっている不動産は、共有持分を生前贈与や親族同士の売買で共有を解消しておくとよいでしょう。生前贈与と親族間売買の違いは「譲渡対価をもらうか・もらわないか」です。生前贈与の場合は共有持分をもらった人に贈与税が、売買の場合は共有持分を譲った人に譲渡所得税の課税があるため、申告・納付の準備をしておく必要があります。

【例】長男と次男で不動産を共有しており、長男側で共有名義対策を行いたい場合
……次男の共有持分を妥当な価格で売ってもらい、その後に特定の相続人に単独名義で相続させる旨の遺言書を作成する方法が考えられます。このとき、次男に譲渡所得税がかかる点に留意する必要があります。

 

まとめ


共有名義による不動産の相続は、一時的に相続人間の対立を回避できるものの、深刻なトラブルを招くことがあります。売却時の同意問題、維持費負担の不公平、権利関係の複雑化など、時間の経過とともに問題は深刻化するでしょう。

共有名義の回避は、遺言書や家族信託を活用した適切な生前対策が要となります。すでに共有状態となっている土地・建物については、共有者が増える前に生前贈与や親族間売買を検討し、権利を整理しておくとよいでしょう。

共有名義の不動産に関するトラブルは複雑で、個々の状況に応じた最適な解決策を考える必要があります。ひとりで悩まず、まずは不動産相続のプロである司法書士にご相談ください。