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いま知っておくべき数次相続のリスクと注意点

相続は誰もが直面する可能性のある重要な法的手続きですが、その中でも「数次相続」は特に複雑で注意を要するケースです。高齢化社会の進展に伴い、相続手続きの途中で次の相続が発生するという状況が増えています。ここでは、数次相続とは何か、その手続きの特徴、そして直面するリスクと注意点について詳しく解説します。もしものときに適切に対応できるよう、全体像を把握しましょう。

数次相続とは

数次相続は、ある相続が発生したときに、その相続人も亡くなってしまう特殊なケースを指します。二次相続、三次相続と連鎖的に発生することで、相続人の確定や遺産分割、相続税の申告などが通常以上に煩雑になります。このような状況は、高齢者世帯の増加や相続手続きの長期化に伴い、今後さらに増加する可能性があります。

相続手続の前に相続人も亡くなった場合

数次相続で典型的なのは、相続手続を完了させる前に当事者の一部が亡くなってしまうケースです。例として、父親が亡くなったあと立て続けに母親も他界した場合や、祖父母の相続手続きが終わらないうちに親も亡くなってしまったような状況が挙げられます。また、相続した不動産の名義が祖父母世代のままになっているなど、前回の相続登記が終わっていないと判明したケースも数次相続の対象となります。

数次相続が起きた場合の手続方法

数次相続が発生した場合、一次相続の次は二次相続・三次相続……とのように、最初の相続から順に手続を進めるのが原則です。これにあたり、相続人の調査や、調査で判明した相続人らとの連携が重要となります。手続方法を解説すると、次の通りです。

相続人の調査

数次相続における相続人の調査は、各被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本に基づいて行います。たとえば、祖父母の台から続く数次相続なら、祖父または祖母の戸籍に基づいて親世代全員の調査を終え、さらに親世代の戸籍に基づいて配偶者や子の調査を進めることになります。調査では、下記の法定相続に関する知識を活用します。

■法定相続人の組み合わせと相続順位
法律上、相続人になることができるのは、血族のうち最も相続順位が高い者と配偶者です。相続順位は、次のように定められています。

・第一順位:直系卑属(子・孫)
・第二順位:直系尊属(両親・祖父母)
・第三順位:兄弟姉妹

各相続での遺産分割協議

数次相続では、各相続についてそれぞれ遺産分割協議を行う必要があります。例えば、父親の相続(一次相続)と母親の相続(二次相続)が発生した場合、まず父親の遺産分割協議を行い、次に母親の遺産分割協議を行うのが原則です。

遺産分割協議書の作成

遺産分割協議書の作成は、通常1通で済みますが、記載内容が通常の相続と異なります。二次相続以降の被相続人は「相続人兼被相続人」と明記する必要があり、数次相続が発生した旨と相続権の承継について明記する必要があります。

■父→母と数次相続が起きた場合の遺産分割協議書の例
※太字=数次相続の場合の記載項目

被相続人 法務太郎 昭和○年○月○日生
本籍地 ○○県○○市○○町○○
最後の住所地 ○○県○○市○○町○○

相続人兼被相続人 法務花子 昭和○年○月○日生
本籍地 ○○県○○市○○町○○
最後の住所地 ○○県○○市○○町○○

(中略)

被相続人法務太郎(令和○年○月○日死亡)の相続財産につき、共同相続人である法務一郎および法務次郎は、同じく共同相続人である法務花子(令和○年○月○日死亡)の地位を承継し、協議に参加した。

(中略)

法務太郎の相続人兼法務花子の相続人 法務一郎
住所 ○○県○○市○○町○○ 印

法務太郎の相続人兼法務花子の相続人 法務次郎
住所 ○○県○○市○○町○○ 印

遺産の名義変更の実施

数次相続では、各相続について遺産の名義変更手続きが必要となります。相続手続きが必要な財産には、不動産、預貯金、証券など、被相続人名義の全ての財産が含まれます。名義変更に必要な書類と手順は財産の種類によって異なりますが、一般的には、一次相続以下の相続および相続人関係者の全員について、以下のものが必要となります。

 ・遺産分割協議書
 ・相続人の戸籍謄本
 ・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
 ・印鑑登録証明書(相続人全員分)
 ・財産を承継する人の住民票

相続税の申告

数次相続の場合、最初の相続から相続税申告が必要になります。ただし、相続税申告にあたっては、申告期限や適用できる控除など、通常の相続とは異なる注意点がいくつかあります。

例えば、相続税の申告期限は通常、被相続人の死亡を知った日から10ヶ月以内ですが、数次相続の場合、この期限が延長される場合があります。また、相次相続控除という特別な控除が適用できる可能性もあります。これらの詳細については、後ほど詳しく説明します。

相次相続・代襲相続との違い

数次相続は、代襲相続や相次相続と混同されやすいですが、定義においても手続の面でも全く異なります。まず、相次相続とは、ある人の相続が発生してから短期間のうちに、その相続人についてもさらに相続が発生することを指します。数次相続との違いは、相次相続では先の相続の手続きが完了していることが多い点です。

他方、代襲相続とは、本来相続人となるはずだった人が被相続人より先に死亡している場合に、その人の子(被相続人から見て孫)が代わって相続人となることを指します。数次相続との大きな違いは、代襲相続では被相続人の死亡時点で既に相続人が決まっているのに対し、数次相続では相続手続中に新たな相続が発生する点です。

具体例を挙げて、その違いを確認してみましょう。

■数次相続
父が亡くなり、その相続手続中に母も亡くなる。

■相次相続
父が亡くなり相続手続きが完了した後、短期間のうちに母も亡くなる。

■代襲相続
父が既に他界しており、祖父が亡くなった際に父の子(孫)が相続人となる。

数次相続における相続手続のリスクと注意点

数次相続では、通常の相続以上に複雑な手続きが必要となり、さまざまなな注意点があります。とくに、相続人の確定、遺産分割協議の実施、相続税の申告などにおいて、通常の相続とは異なる対応が必要となります。気をつけたいのは、次のポイントです。

相続人調査を慎重に行う必要がある

数次相続では、複雑で不明瞭だったとしても、各回の相続人の調査は慎重に行わなければなりません。大前提として、どの回の相続でも、遺産はいったん相続人全員の共有に属します。このことから、各回において相続人全員が参加しないと、有効に遺産分割協議を成立させることができません。

考えられるのは、法定相続の関係を理解していないために相続人を見落としたり、連絡がとれそうにない相続人について自己判断で遺産分割協議から除外してしまったりするリスクです。この場合、遺産分割協議書を作っても内容に効力が生じず、相続手続では使えません。

一次相続と二次以降の相続で相続人が異なる場合の対応

数次相続では、一次相続と二次相続で相続人の顔ぶれが異なる場合も多々あり、このときは対応が面倒になります。たとえば、父と母が相次いで亡くなったケースでは、子が母の相続権を受け継ぐことで、二次相続までの遺産分割協議を子らだけで終えることが出来るでしょう。遺産分割協議書も、先で紹介したような文面で1通で完結させられます。

一方で、祖父母と親が立て続けに亡くなったケースでは、一次相続では親世代とその子ら、二次相続では一次相続で承継人となった人の子らが相続人になります。この場合、遺産分割協議は、一次相続と二次相続でそれぞれ実施し、異なる当事者の組み合わせで2通の遺産分割協議書を作成しなければなりません。このとき、一次(もしくは中間)の相続の相続人と連絡が取れないような状況に陥る可能性があり、次のような対応を検討する必要があります。

 ・第三者を通して、一次もしくは中間の相続人との連絡を試みる
 ・いったん法定相続で登記する(不動産等が共有状態になるため推奨できない)
 ・不在者財産管理人制度を利用し、遺産分割協議を終わらせる(相手が所在不明の場合)

相続手続の手間が二倍・三倍になる

数次相続で遺産分割協議を終えたあとには、遺産の名義変更を適宜進めなくてはなりません。ここで起こる問題が、その手間が二倍、三倍と相続の回数分だけ増えることです。典型的なのが土地や建物の相続登記(相続を原因とする所有権移転登記)で、その原則上、一回目の相続・二回目の相続……と順にひとつずつ登記申請しなければなりません。

もっとも、相続登記の場合、中間省略登記と呼ばれる手続が認められ、一回で登記申請が済む可能性があります。これにあたってはいくつか要件があるため、専門家による判断が必要です。

相続税申告・納付義務を引き継ぐ

数次相続では、相続税の申告・納付義務が次の相続人に引き継がれるという特徴があります。具体的には、最初に亡くなった被相続人および中間で亡くなった被相続人の申告義務を、最新の相続人が引き継ぐことになります。

例えば、父が亡くなり(一次相続)、その相続税申告前に母も亡くなった(二次相続)場合、子供たちは父の相続税と母の相続税の両方について申告・納付義務を負うことになります。このとき注意したいのは、各回の相続税を正確に計算し、納付しなければならないという点です。一次相続と二次相続で相続財産が変動している可能性があるため、それぞれの相続時点での財産評価を適切に行う必要があります。

相続税申告での注意点

数次相続における相続税申告には、通常の相続とは異なるいくつかの注意点があります。具体的には、申告期限の延長、基礎控除額の取り扱い、相次相続控除の適用などが挙げられます。これらの点を正確に理解し、適切に対応することが、適正な相続税申告のために不可欠です。

申告期限が延長される

通常、相続税の申告期限は被相続人の死亡を知った日から10ヶ月以内ですが、数次相続で一次・二次と立て続けに相続人になった場合は、最後の相続開始日が起算点となることで、実質的に期間が延長されます。たとえば、父と母が相次いで亡くなった時は、父の死亡を知った日が本来の申告期限の起算点ですが、これが「母の死亡を知った日」に変わります。

基礎控除は増加しない

数次相続が発生しても、相続税の基礎控除額は増加しません。基礎控除額の計算方法は3,000万円に600万円×法定相続人の数を加えた額です。この法定相続人の数は一次相続が発生した時点で決定され、その後の数次相続による相続人の増加は考慮されません。

相次相続控除を適用できる場合がある

数次相続では、相次相続控除を適用できる場合があります。相次相続控除とは、10年以内に2回以上の相続が発生した場合に、後の相続における相続税額から一定額を控除できる制度です。
適用するには、①10年以内の相続であること、②その10年以内に開始した相続により取得した財産について課税されていること、などの条件を満たす必要があります。

まとめ

数次相続は、ひとつの相続手続きが完了する前に次の相続が発生する複雑なケースです。この状況下では、相続人の確定、遺産分割協議、相続税の申告など、通常の相続以上に慎重な対応が求められます。とくに、相続人の調査をしっかり行う必要がある点や、有効な遺産分割協議を複数回行うときにハードルがある点、相続税申告における特殊な取り扱いなどが重要なポイントとなります。

立て続けに相続が発生したとき、自己判断での対応は禁物です。一見単純に見えるケースでも、専門家の判断を仰ぎ、適切に対応するようにしましょう。