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土地・建物の所有者が認知症になると「施設入居後の空き家を売りたい」「健康な近親者が管理を継続したい」などの理由で、不動産の名義変更を検討する場合がよくあります。問題は、意思能力を失ったと判断され、法的に有効な贈与や売却契約を結ぶことができなくなり、結果として不動産の名義変更ができない恐れが生じる点です。
家やそのほかの土地・建物を名義変更するなど、所有者が認知症になった後も利活用できるようにするには、どうすればいいのでしょうか。
不動産の所有者が認知症と診断された場合、土地・建物の名義変更は困難だと言わざるを得ません。名義変更の原因となる贈与・売却について、その契約を自力で結ぶための条件である「意思能力」がないとされるためです。
贈与や売却といった取引は、総じて法律行為と呼ばれます。民法第3条の2では「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」と明確に規定されます。ここでいう意思能力とは、自分の行為の結果を理解し、適切に判断するための精神的な能力だとされます。
不動産の名義変更手続きそのものである所有権移転登記では、申請を代理する司法書士がいる場合、確かに所有者本人であることとともに意思能力をチェックします。具体的な方法として「所有する不動産の情報を教えてください」といった趣旨の質問などが挙げられます。これらに対応できない場合、意思能力がない=有効な法律行為ができないものとして、登記申請は行えないと結論づけます。
意思能力の判断では、医学的判断を判断材料のひとつとします。具体的には、長谷川式認知症スケール(HDS-R)や、MMSEなどの認知機能テストの結果、介護保険の主治医意見書や認定調査票などを参考資料とします。
もっとも、医学的判断は材料のひとつに過ぎません。実際には、本人と取引関係者との面談の結果や、日常生活の様子を通じて最終的な判断が行われます。そのため、認知症がまだ進行していないうちは、意思能力が認められて本人による不動産の名義変更ができる場合もあります。
認知症により意思能力を失った人の不動産の名義変更は、成年後見制度を利用して行います。不動産の名義変更が必要になった段階で認知症の進行がみられる場合は、制度のうち、裁判手続で制度利用を開始する方法(法定後見)を選ぶことになるでしょう。
法定後見は、認知症や精神障害などにより判断能力が不十分な人のため、後見人(または保佐人・補助人)を家庭裁判所に選任してもらう方法です。選任された人は家庭裁判所の決定に沿って後見報酬を受け取りつつ、本人に代わって財産管理や身上監護を行います。このしくみがあれば、後見人が法定代理人となり、不動産の名義変更のための取引(贈与や売買)を行えます。
成年後見制度を開始するための手続き(後見開始の審判)で後見人だと認められても、不動産を処分する際には、あらためて許可や同意が必要になります。
被後見人の自宅(居住用不動産)であるときは、家庭裁判所の許可を得るための手続きを先に行わなければなりません。自宅として利用していない不動産(遊休地など)でも、後見監督人が選任されている場合は同意が必要です。
法定後見だと、実際に不動産の名義変更ができるようになるまで時間がかかります。最低限、後見人の選任のための書類収集と審判の期間にあたり、通常2か月から4か月程度の時間がかかります。
居住用不動産の処分および名義変更の場合は、さらに一定期間を要します。本人の財産を保護する目的で、あらためて家庭裁判所による判断が行われるためです。処分の許可をもらうにあたっては、書類(売買契約書案・不動産査定書・親族の同意書など)が求められ、これらを集めるための時間も見込まなくてはなりません。
法定後見は必要なときだけ使うものではなく、判断能力が低下した人を継続的に守るしくみです。そのため、容易にとりやめることはできず、継続するあいだは本人の保護のためさまざまな制約が伴います。具体的には、積極的な資産運用や相続税対策は認められず、孫へのお小遣いや家のリフォームなど柔軟な支出も困難になる場合があります。
ほかには、必ずしも親族が後見人として選ばれるとは限らない点や、とくに親族でない後見人(弁護士などの専門職)で家庭裁判所が取り決める後見報酬の問題も挙げられます。後見報酬は月額2万円から6万円程度となり、その負担は無視できません。
認知症により意思能力を失うと、不動産の名義変更ができなくなるだけでなく、預貯金の自由な引き出しも制限されます。このような財産凍結のトラブルを避けるため、元気なうちに生前贈与、任意後見契約、家族信託などの準備をしておきましょう。
不動産などの財産を事前に子どもや孫に贈与しておけば、認知症発症などにより判断能力が低下した後も受贈者が自由に売却や活用を行えます。とくに将来的に介護費用や施設入居費が必要になる可能性を考えると、早期の贈与により資金調達の手段を確保できるメリットは大きいでしょう。
生前贈与で注意したいのは、不動産などをもらい受けた贈与税が発生する点です。年間110万円を超える贈与には贈与税が課税され、不動産のような高額財産の贈与では数百万円の税負担が生じることもあります(暦年贈与)
……相続開始までの累計で、贈与の時期にかかわらず2,500万円まで非課税となる制度です。相続時に贈与財産も含めて相続税を計算するため、相続税の基礎控除内であれば実質的に無税で財産移転が可能となります。
……年間110万円の基礎控除が新設され、この範囲内であれば贈与税・相続税ともに非課税で申告も不要となりました。毎年110万円ずつの継続的な贈与により、長期的な財産移転戦略を立てやすくなっています。
任意後見制度は、判断能力が十分なうちに将来の後見人を自分で選び、委任事務の内容を契約で定める制度です。法定後見制度では家庭裁判所が選任した第三者が後見人となることが多く、保守的な財産管理しか認められません。一方、任意後見では信頼できる家族を指名でき、生前贈与や不動産売却、投資の継続なども契約書に明記すれば、本人の意思に沿った柔軟な管理が可能です。
とくに不動産の売却については、法定後見では居住用不動産の処分に家庭裁判所の許可が必要で、手続きに数か月を要することがあります。任意後見契約で売却権限を明記しておけば、介護費用が必要になった際にスムーズな対応が可能となるでしょう。
……任意後見契約は必ず公正証書で作成する必要があり、公証人による本人確認と意思確認が行われます。契約書には財産管理の範囲、報酬、終了事由などを詳細に記載し、将来のトラブルを防止することが重要です。
……本人の判断能力に不安が生じた際、家族や任意後見受任者が家庭裁判所に監督人選任を申立て、監督人が選任されてから効力が発生します。医師の診断書や家族の証言をもとに、適切なタイミングで制度を開始できます。
家族信託は、財産の所有権のうち管理する権利だけを信頼できる家族に移す制度です。委託者(親)が受託者(子ども)に財産管理を託し、委託者が受益者として経済的利益を受け取る構成が一般的です。成年後見制度と異なり、家庭裁判所の許可や後見人報酬が不要で、受託者の判断により迅速かつ柔軟な財産管理が可能です。
不動産を信託財産とする場合、信託登記により所有権が受託者名義に変更されますが、家賃収入や売却代金は受益者である親が受け取ります。親が認知症になっても、子が受託者として不動産の管理・処分を継続でき、介護費用の捻出や相続対策も計画的に実行できるでしょう。
……将来的な介護施設入居費用を捻出するため、親が委託者兼受益者、子が受託者となる信託契約を締結します。親の判断能力低下後も、子の判断で自宅を売却し、売却代金を親の介護費用に充てることができます。法定後見制度では居住用不動産の売却に裁判所の許可が必要ですが、家族信託では受託者の判断で迅速な対応が可能です。
認知症になると「意思能力がない」とみなされ、不動産の名義変更にあたって成年後見制度の利用が前提となります。このとき、利用するのが法定後見であると、時間と費用の負担が避けられません。元気なうちに家族信託や任意後見契約、計画的な生前贈与などの準備を進め、不動産などの財産を適切に名義変更し、管理できるようにしておきましょう。
所有者が高齢期に入った自宅やそのほかの土地・建物に関する悩みは、司法書士にご相談ください。円滑な利活用を可能とするため、状況に合う最適な方法を提案します。